2013年5月16日木曜日

借入金とインフレと国の借金

インフレが起こるとインフレを抑えるために中央銀行は政策金利を引き上げる。
政策金利が引き上げられると市中の金利も上がるため、借入金の金利が上がり利払いが増える。
このようにインフレ下では借入金の利払いが増えることから、借入金が多いとインフレ時に損をすると誤解している人が多い。

全ての価格が同様に上昇するような正常なインフレ下では、借入金の金額が名目ベースで固定されているため、インフレによって収入が増えることで借入金の返済は楽になる。
極端な話だが、売上高100万円の会社が100万円の借り入れをしていたとして、100%のインフレが起これば、売上高は200万円のなるのに借入金は100万円のままなので、明らかに返済は楽になる。
インフレ(特にハイパーインフレ)には借金を棒引きする効果があるのだ。

しかし、全ての価格が同様に上昇するような正常なインフレというのが難しい。
実際には売上高や給料が上昇する前に金利が上昇して利払いが増加したりする。
いずれは売上高や給料も上昇するのかもしれないが、それまでの間は苦しくなるのである。

このようなタイムラグに最も耐えられないのは、住宅ローンのサラリーマンではなく、日本国である。
日本政府の税収(42兆)に対する借金(700兆)の比率は、サラリーマンの給料に対する住宅ローンの比率を遥かに上回る大きさである。
何より、日本政府は歳出が多く、借金返済どころか増加させるばかりである。
このため、金利の上昇については、サラリーマンより日本政府の方が先に音を上げることになる。

ここで登場するのが日銀だ。
日銀券ルールを無視すれば、日銀が日本政府の借金をまかない続けることができるため、日本政府が財政破綻することはない。
しかし、中央銀行による国家財政のファイナンスは過去の歴史で見ると通貨の信認を失わせ、ハイパーインフレを引き起こしてきた。
これが今まで大規模な金融緩和に踏み切れなかった理由である。
あの金融マニアの白川前日銀総裁ですら1930年代に経験した、日銀による国債引き受けが引き起こしたインフレを例に出して、大規模な金融緩和策を支持しなかった。

一方で、このままではハイパーインフレが起こるとか、ギリシャみたいになるぞ、というのは早計である。
なぜなら、世界の歴史上ハイパーインフレが起こった国や財政破綻した国と日本では基礎的な経済力が全く異なるからである。
日本の借金のほとんどは海外依存しておらず、国内依存であるため、いわゆるソブリンリスクがない。
日本は世界最大の債権国であり、それは債務を上回っている。
今まで50年以上にわたって稼ぎ続けてきた対外純資産があるのである。

経常収支等が悪化しており、いつ対外純資産を使い切るのかはわからないが、50年かけて溜めこんだ資産が5年で雲散霧消することはない。
だから日本がギリシャのようになることはない、と私は信じている。

父親が3億円の資産を持っているのに、一切母親と子供に渡してくれないため、生活に困った母親が父親の信用力でおじさんからお金を借りて結構いい生活をしている。
父親が3億円をギャンブルで浪費したり(経常収支の急速な悪化)、家庭崩壊(富裕層の流出)に至らなければ、母親と子供が困窮することはない。
日本の現状はこんな感じだろう。

これが、私がアベノミクスを陰ながら支持する理由である。
但し、インフレは多かれ少なかれタイムラグがあり、低所得者層の生活を圧迫することは間違いない。
その対策を忘れてはならない。

そしてインフレによって名目GDPが増えれば、GDPに対する借入金の比率が小さくなる。
また、名目GDPが増えれば税収も増えるため、借入金を返しやすくなる。
こうして日本は借金を軽減してゆくしかないのである。


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